寝太郎ブログ

2月10日文庫本発売→『自作の小屋で暮らそう: Bライフの愉しみ (ちくま文庫)』

旅の思い出・その1、社会的生きづらさと中島的生きづらさ  


インドの田舎でリキシャ(客を後ろに乗せて自転車を漕いで運賃を稼ぐ、人力タクシー)に乗った。

運賃はだいたいの見当をつけてから交渉するんだけど、どうも、払いすぎたらしい。

金を渡すと、漕ぎ手のおっちゃんはその紙幣に何度もキスをして、天を仰いで神に感謝している。

その感謝っぷりが半端じゃない。客の僕はしばらくそっちのけだ。僕に感謝してるんじゃなくて、神様に感謝してるわけ。


これを今思い返すと、いろんな文脈が見えてくる。


日本で買い物をしていて「ありがとうございます」と言われて、不思議に思ったことはないだろうか。

こっちは、この牛乳は150円なら、まぁ買ってもいいだろう、と思って金を払ってるのに、どうして感謝されなければならないんだ?


インドの庶民の市場で買い物をしていると、こういうことはない。

お金というのは、そのまんま、何らかのサービスをしてやったお礼を、今度は自分が別の誰かにしてもらう権利を保留するためにある。

この前服をもらったから、今度は野菜を誰かにくれてやる。ありがとうもくそも無い。当然の義務と権利だ。


インド人が極端に感謝するのは、自分がしてやった以上のお金が舞い込んできたときだ。


「お客様は神様です」というのは、標語でも何でもなく、そのリキシャのインド人にとっては、まさに文字通り神様が通りかかったという具合なのだ。

まさに、「ありがたい」ことが起こった、だから、ありがとう、神様。


あ、 観光ルート上にいる、旅行者慣れしてしまってる輩はだめ。やつらは、恭しく「センキューベリマッチ」とか「アリガトゴザイマス」とか言ってくる。デリーの都会のデパートもだめ。センキューセンキューうるさい。

そういうのを聞いてしまうと、何のために遥々異国の地へ来たのかという気持ちになる。


それで、つまり、インドではそもそも「儲ける」という概念が無い。ギブアンドテイクで、きれいにペイされる。その媒介として、たまたまお金が使われているだけ。


でも、日本の「商売」というのは、ギブアンドテイクじゃなくて、「儲ける」ということが当然とされている。+αで返ってこないと気が済まない。考えてみると、おかしな話で、みんながみんな儲けられるわけないんだけど、でも、商売というのは儲けるものだ、とされている。


一応、資本主義の理屈としては、生産体制を整えた人間が偉いんだという話なんだろうけど、とにかく、その背後にいる資本家が「儲けさせてくれて、ありがとう」という気持ちが、店員の「ありがとうございます」マニュアルには詰め込まれている。


「社会的な生きづらさ」を感じる人は、こういうことを、すぐに考えてしまうか、あるいは、無意識のうちに感じ取ってしまう。

それで、今お金を払ったことによって、誰かが儲けるために自分が犠牲になったという自覚があるから、今度はそれを取り返すために、自分が奮起しなければならない。

でも、元々そういうことに向けるエネルギーが無い人は、そんなトルネードに巻き込まれていくとだんだん消耗していって、それがあらゆる形で「生きづらさ」となって日常に現れてくる。

そういう生きづらさを感じているほとんどの人は、「自分が悪い」と思ってるようにも見えるけど、この異常な2億総「躁」状態を客観的に見ると、「社会が悪い」とも理解できる。


一方、「中島的生きづらさ」というのは、そもそも店員がオウムのように「ありがとうございます」と繰り返していること自体が気に食わない。

その背景にある、イデオロギーとか、それが正しいか否かなんて、どうでもいい。その店員が、自分がどうして「ありがとうございます」という言葉を口にしているのか、一つも考えたことがないのに、ただ同じ言葉を繰り返す、形骸化してしまっている言動に対して憤慨するのが、(僕の理解する)中島義道。


これはもう、理屈じゃない。もう、そういう人間がとにかく嫌いとしか言いようが無い。心の底から受け付けない。生理的にムリ。

資本主義的な広告の垂れ流しなんかは、その極端な例だけど、別にそれは資本主義そのものに怒っているわけじゃない。


で、憤慨している対象が正しいか否かはあまり関係がないし、自分が何か代替案を提示できるわけでもないのに文句を言うから、頭がおかしい人扱いされる。というか、頭がおかしい。時には、数学や物理を使いまわしている人に対してさえ、憤慨する。


彼には彼なりの言い分がある。

彼は、死の問題に興味があって、意識が生じていることによって真となるものと、意識存在に関わらず真になるものとの境界線に興味がある。彼はその境界線で日々格闘しているのに、「生きる」という文脈の中でのみ真となるものを当たり前だと思って押し付けてくる奴が許せない。なぜなら、ひとたび「生きる、死ぬ」ということを考え始めると、そうそう簡単に「真」と言えるものは見つからないから。数学や物理も然り。


でも、普通はそんなことは考慮してもらえないから、日常生活が侭ならなくなったり、そばにいる人を傷つけたりして、人生がめちゃくちゃになる。で、どうしようもなく生きづらい。



えっと、何の話だっけ。旅?インド?

オチはありません。「その2」もたぶんありません。




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コメント


14 ■無題

自分でなんでも良いのでモノを作って売ってみると店員の「ありがとうございます」ってよく分かると思います。こんなんあったら便利だよな、作ってみるか→売れない→改良しても売れない→色々やっても売れない→ふらっときた客が買ってくれた。こんなときは心からありがとうございますって言葉がでると思います。雇用主が強制するありがとうございますもありますけど、こういうありがとうございますもありますよね。

逆に客側からのありがとうもありますよね。探して探してやっとみつけた商品とかには自然と売ってくれてありがとうって気持ちになりますね。

yoo #79D/WHSg | URL
2012/07/23 23:16 | edit



13 ■無題

御足労頂きありがとうって意味もあるよ。
特に気候の足場の悪い時は、確実に客足が減ります。

自分の買い物が安く数点しか買ってない時に言われると、「こんなに少ししか買ってないのに恥ずかしい、悪いわ。」と、思うこともあります^^
私は、お店の方から「ありがとう。」と、言われると気持ちがいいです。
私もレシートをもらったあと、「ありがとうございました。」と、お礼を言って去ります。

サンバー #79D/WHSg | URL
2012/07/23 15:20 | edit



12 ■無題

(数あるお店の中からここで買っていただき)ありがとうございます的な意味合いもあるのかな

たろ #79D/WHSg | URL
2012/07/21 22:23 | edit



11 ■Re:Re:もうけについて

>毎年寝太郎さん
人生忙しくさせる要因の一つに「恋愛」ってあると思んですよね。高々、単なる生殖行為 人間の再生産にえらい高値が付いてる訳でして。恋愛と高価な住居は結びついている。恋愛して結婚したら新築一戸建て、マンション欲しくなるでしょ。本当は中古小屋80万円みたいなので充分なはずですが

もうけたろう #79D/WHSg | URL
2012/07/21 08:58 | edit



10 ■Re:もうけについて

>もうけたろうさん
のはずなんですが・・・。

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2012/07/21 05:08 | edit



9 ■Re:無題

>スギヲさん
「長期海外旅行に本を一冊だけ持って行くなら何にするか」は面白そうなテーマ。
単体で自己完結している必要があるから、そういう意味では、適度に難しい良質の数学書を、紙と鉛筆を用意して一冊頭から読んでいくとか。
カントとかは、一応、文脈があるから、導き手も無しで、単体で読むようなものではない気もします。

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2012/07/21 05:06 | edit



8 ■Re:無題

>まさるさん
前記事のコメントに書きましたが、現在ダウンサイズ中です
それ以前に見れなかったのは、セキュリティソフトが嫌っていたのかもしれません

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2012/07/21 04:56 | edit



7 ■Re:無題

>あぽきしんさん
「この構造」がどれを指しているのかわかりませんが、「潰されてしまう」を指しているのであれば、僕にはよくわかりません。

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2012/07/21 04:49 | edit



6 ■もうけについて

儲け続けなければいけない理由は無い。
人生というのは実は、退屈であまりやる事は無い。儲けたい人間はそういう事実を無視してるよね。要は、必要なだけの食い物と水があればいいじゃん

もうけたろう #79D/WHSg | URL
2012/07/21 01:45 | edit



5 ■無題

ちょうど今中島義道の『観念的生活』を読んでたところでした。寝太郎さんのブログでこの現象が起こるのは3度目です。確か前のは、宮沢賢治とソローだったと思います。
近々アフリカに行くことになって、資料を求めて図書館へよく行くのですが、なぜか10年以上読んで無かった哲学関連の本に目が行きます。
何度も挫折してる『純粋理性批判』をアフリカに唯一持っていく日本語の本にしたらどうなるんだろうなんて考えてます。

スギヲ #79D/WHSg | URL
2012/07/20 23:46 | edit



4 ■無題

>Bライフ研究所
読めないのは僕だけかな?

まさる #79D/WHSg | URL
2012/07/20 16:50 | edit



3 ■無題

200年の鎖国的状況を続けた江戸文化の中からは、宵越しの銭は持たない的なお金にのみ価値を見出す奴は無粋だ、江戸っ子じゃない、という庶民感覚が生まれた。資本家・株主が会社を保有する、つまりは人間社会のOwnerであるという状況を変える社会概念が発明されれば、状況はすこしよくなるかも知れない。資本主義から隔離された共同体や地域限定通貨(イサカアワー等)は現社会構造の所有者からは潰されてしまう。でも、多くの人は既にこの構造のトリックに気がついているんじゃないかな?寝太郎さんはどう思いますか?

あぽきしん #79D/WHSg | URL
2012/07/20 15:51 | edit



2 ■Re:よかったです!

>カキタさん
僕は中島的生きづらさとはまた違います。
中島さんの場合は、それでも、生きづらさが対外的なものである気がします。
僕はもっと私的なものかもしれない・・・。

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2012/07/20 14:41 | edit



1 ■よかったです!

寝太郎さんへ
哲学的な難しい内容だったですが、良かったですよ!
中島さんの本はボクも読んでます。
正に寝太郎さんの解釈がドンピシャズバリですよね。
ナンダカ、寝太郎さんの生き方の一部分が少しだけですが垣間見えたような気がしました。
その2もあればなあ・・・期待(笑)
PS・暑くなりましたが熱中症に気を付けて下さいね。

カキタ #79D/WHSg | URL
2012/07/20 10:49 | edit



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