寝太郎ブログ

2月10日文庫本発売→『自作の小屋で暮らそう: Bライフの愉しみ (ちくま文庫)』

『病気はなぜ、あるのか』  


病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解発熱は体温を上げて免疫力を高めるため。下痢は腸内の異物を早く体外に排出するため。だから、発熱も下痢も、必ずしも薬などで抑えるべきではない。
昨今、病気の症状を一概に異常や悪と捉えず、むやみに抑制すべきではないという考え方は、広く聞かれるようになった。
しかし、こうした考え方の歴史は意外と浅い。

『病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解』

この本は、そもそもなぜ、病気などというものが存在するのか、という問いに対して、進化生物学という視点から答えた、最初の本である。いわく、
個人としての人間が、なぜ特定の病気にかかるのかについては、ますます多くのことがわかってきているが、いったいなぜそもそも病気というものが存在するのかについては、未だにほとんどわかっていない。
タイムリーな例を挙げると、風邪やインフルエンザ。
感染すると、血中の鉄分濃度が低下する。これは異常事態だと思って鉄分を補給すると、症状は悪化する。鉄分濃度の低下は、細菌にとって希少な鉄分を摂らせないため、僕らが進化させた防御機構なんだそうな。
風邪にかかってるときは鉄分の多い卵はだめだし、健康なときだって栄養は摂ればいいってモンじゃない。

西欧医学によって、病気の「何が」「どのように」という物理化学的な因果関係(至近要因)とその対処法については詳細な研究が進んできたが、その起源や機能、つまり「なぜ」の部分はほとんど未開拓である。その「なぜ」に答えてくれるのが適応と歴史的因果関係(進化的要因)であると言う。
医者や医学研究者の教育現場では、「進化」は奇妙にも無視され続けてきた。
したがって、2013年現在において、何か劇的に新しい視点をもたらしてくれる本ではないかもしれない。にもかかわらず読むに値する価値があると思う理由は、以下の4点から。

1.発熱や下痢などのありふれた例だけでなく、医学界の広範に亘る例(実に和書400ページ)を用いて、説得的に書かれている。また、一般向けの書物としての引き際を心得ていて読みやすい。つまり、科学って面白いと思わせてくれる良質の科学啓蒙書であるということ。

2.原著が出版されたのが1994年。当時、英語圏を中心に非常に高い評価を受けた本である。つまり、1994年の時点ではこれが驚きとして語られていたのだ、という歴史的な読み方ができる。たった20年の間に、学者や学会の努力の積み重ねがあり、こうした啓蒙書の力があり、ようやく現代の常識がある。今では、洋書・和書含め、多くの進化医学の解説書がある。

3.思想的に重要な点については詳しく解説されている。「進化」の推進力になっているのは「自然淘汰」だが、僕らが日常的に思い浮かべる「自然淘汰」は曖昧で、せいぜい「個体に有利に働く」「適者生存」くらいのイメージである。黒幕は「遺伝子」の存在であって、遺伝子に働く自然淘汰を考えることで初めて説明される病気も多い。もちろん、個体に有利であれば、遺伝子にも有利であることが多いが、その限りではない。

4.「個体に不利だが、遺伝子には有利」の極めつけが、老化とそれがもたらす自然死である。簡単ではあるが、本書では老化と死についても触れられている。つまり、僕らは、進化によって「死を獲得した」のである。


熱が出たとき、下痢をしたとき、吐き気を催したとき、「嫌だなぁ」じゃなくて、「おお、がんばっとるな、ワシの体」と思えるようになるだけでも、全然病気に対する心構えが違ってくるんじゃないだろうか。



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category: 科学
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コメント


6 ■Re:スモールハウス

>mushoku2006さん
『かわいい隠れ家』もおもしろそうですね

毎年寝太郎 #79D/WHSg | URL
2013/01/22 13:06 | edit



5 ■スモールハウス

ようやくですが、
読了しました。
内容を勝手に勘違いしていましたが、
なかなか面白かったです。

mushoku2006 #79D/WHSg | URL
2013/01/20 19:54 | edit



4 ■無題

何十億年もかけてDNA(の媒体)が、DNAを操作できるようになるとは・・・壮大な有機システム体ですね。

とうま #79D/WHSg | URL
2013/01/20 08:04 | edit



3 ■無題

頭では分かっていても、
苦しい時には中々そう思い難いでしょうけど、
心がけたいなとは思います。(^^)

mushoku2006 #79D/WHSg | URL
2013/01/20 07:49 | edit



2 ■不思議

人間、というか地球の生命体というか、DNAというか、は凄まじく合理的ですな。
我々はDNAを次世代につなげるためだけの単なる媒体なんですかね。
その「媒体」が主たるDNAを操作しようとしていたりする。
考えれば考えるほど、ワケわかんなくなります。

hirock #79D/WHSg | URL
2013/01/20 01:09 | edit



1 ■こんばんわー。

とても興味深い記事ですねー。
勉強になりました!!
1994年の本というのは驚きですねー。
思ったよりずっと新しい。

また自然淘汰について、「個体に不利だが、遺伝子には有利」という考え方は、とても新鮮でした☆

ノラ #79D/WHSg | URL
2013/01/19 22:56 | edit



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