寝太郎ブログ

2月10日文庫本発売→『自作の小屋で暮らそう: Bライフの愉しみ (ちくま文庫)』

スイッチを切る  


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このロフトは死んだように眠れる。ぶら下がっているのは、手を使わずに読書するための洗濯ばさみである。

小屋を留守にしていると薪ストーブとロフトが異常に恋しくなってきて、放浪や短期アルバイトや他の場所での生活から小屋に辿り着いた瞬間はとてもホッとする。

その恋しさや安堵の正体は何だろうと考えてみると、やはり「低空飛行」ないしは「スイッチを切る」というところにある気がする。肉体のスイッチ。人間関係のスイッチ。金銭の遣り取りのスイッチ。義務のスイッチ。言葉のスイッチ。思考のスイッチ。時間のスイッチ。全部切りたい。

もちろんスイッチを切ったままでは生きてゆけないし、やるべきことは出てくるし、そんなに理想的にはいかないのだが、自分が生活の全体において何を求めているかと言えば、「スイッチを切れる場所」だと思う。そして「スイッチを切れる場所」として真っ先に思い浮かぶのが、オフグリッドの小さな庵のような場所である。

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「スイッチを切りたい」という欲求を、ひとえに、複雑で、冗長で、重たくて、忙しくて、騒々しくて、無駄が多い現代の人間社会のせいにしてしまうのは簡単である。とりわけ、僕が本で「空回り経済」と称したように、自転車操業的な経済の構造に目が行きがちである。一体、何が空回っているのか、その全てを把握することは不可能だが、多くの文献でも異口同音、たとえば『ぼくはお金を使わずに生きることにした』では「消費主義のルームランナー」(p.211)というような形容をされている。そして、構造的な側面から徹底的に「空回り」を排除しようとすれば、厳格なイスラム原理主義であったり、酷い例になるとポル・ポトであったりということになる。『自立社会への道』では、ポル・ポトを名指して「やり方が間違っていただけで、考え方は合っている」と明言しているし、『脱資本主義宣言』では、「自分の生きづらさを何とかするためには経済を何とかしなければダメだ」と明言している。

しかし、マクロに見れば確かに経済が空回っているのだが、その空回りの原動力となっているのは、あくまで「個人の空回り」である。そしてこの「個人の空回り」が本当に無意味なものかどうか、人間にとって原理的なものか否か、経済構造によって後天的に作られたものなのかどうかという点が、僕にはよくわからない。

「個人の空回り」の悪い面だけを見れば、『スモール イズ ビューティフル』で言われているように、欲望や嫉妬を公然と利用しているのが経済至上主義であり消費至上主義であるということになる。しかし、例を挙げればきりがないが、たとえば小説は空回りだろうか。人間が際限なく物語を求める心を満たそうとする小説家には畑でも耕してもらったほうがこの世界は良くなるのだろうか。そのほうが人間の目的に適っているのだろうか。

問題は、どこまでが空回りなのか、言い換えるなら、どこまでスイッチを切ったらいいのかという点である。自分自身は気まぐれというか、服を選ぶのとか食材を選ぶのとかその他諸々の買い物とか本当に面倒くさくて、何ならもうみんな同じ作業服と米・味噌・卵でいいから全部配給制にして欲しい、音楽も聞きたくない、小説も読みたくない、と思うときもあれば、自分が「空回り」と無縁でないことは、毎日お茶漬けばかり食べているうちにポテトチップスを食べたくなったり、心停止したような時間が続いているとやがてまた音楽や物語を欲するようになったりすることからもよくわかっている。

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しかも、自分はスイッチを切りすぎることがある。煩わしい人間関係だけでなく、純粋な愛情ですら自分の領域に入ってきて欲しくないと思うときがある。栄養豊富な食事を見ただけで胸焼けして、お茶漬けを食べたいと思うときがある。蛇口をひねると出てくる大量の水を見たり、電線に乗って流れてくる大電流を想像しただけで、とても疲れてしまうときがある。

自分の生活は「質素な小屋暮らし」ということで表面的には聞こえもいいのかもしれないが、その内実をよくよく聞いてもらうと、眉を顰められるというか、一般受けしないだろうなと思うのは、スイッチを切りすぎる理由がマジョリティには伝わらないだろうと思うからである。でもたぶん、1000人に一人くらいは心から共感してくれるだろうという気持ちもある。自分が望むのは、多数の共感ではなく、ホンモノの共感である(参照:「親友の自給」)。別にその存在を確認できなくてもいいが、どこかにいて読んでくれているのだと思っている。

自分が好きな時に、生きながらにして死にたい。スイッチを切りたい。心が死んでいるときに生活が賑やかなのが一番苦痛だからである。

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